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社長は質問で変わる 第2話

―社長は質問で変わる― ある美容サロンが再び成長を始めた2年間 ―

第2話
順調だったはずのサロン

あのときの問いが、
頭に残っていた。


三店舗目を出したころから、
瑞希は、少しずつ違和感を覚えるようになっていた。


売上は伸びている。
お客様も増えている。
スタッフも増えた。


数字だけ見れば、順調だった。

周りから見ても、
うまくいっているように見えていたと思う。


瑞希自身も、
そう思っていた。


でも――

なぜか、落ち着かなかった。

最初のサロンは、小さかった。

ベッドは数台。
スタッフも数人。


全部、見えていた。

お客様の顔も、
スタッフの性格も、
その日店で何があったのかも。


見ようとしなくても、
自然と分かっていた。


二店舗目も、まだ大丈夫だった。

忙しくはなったけど、
手は届いていた。


気になれば、すぐに見に行ける。
話もできる。


まだ、ちゃんと分かっていた。

でも三店舗目になってから、
少しずつ、分からなくなっていった。


スタッフが増える。
シフトが複雑になる。
店舗ごとに空気が変わる。


気づくと、
自分が店にいない時間の方が長くなっていた。


そのたびに、思う。

これで、大丈夫なんだろうか。

自分がいないと、
ちゃんと回らないんじゃないか。


でも、

いない時間も、店は回っている。

だから、余計に分からない。

回っているのか。
回っているように見えているだけなのか。


その違いが、分からない。

なんとなく、
不安だけが残る。

ある日のミーティング。

「最近どう?」

いつも通り聞いた。

誰かが話すと思っていた。


でも、

誰も話さない。


少し間が空く。

視線だけが動く。


「大丈夫?」


もう一度聞く。


「はい、大丈夫です」

「特にないです」

「問題ないです」

それで終わる。


終わったあと、
瑞希は少しだけ考えた。


何もないはずはないのに。

前は違った。

もっと、
自然に会話が出ていた。


お客様のこと。
うまくいったこと。
失敗したこと。


今は、出てこない。

報告はある。

でも、

会話がない。

そのことが、
ずっと引っかかっていた。


ある日。

一人のスタッフが言った。

「すみません……辞めさせてください」

瑞希は、少し間を置いてから聞いた。

「理由、聞いてもいい?」

「将来を考えて…」
「ちょっと環境を変えたくて…」

「そっか」

それ以上は聞かなかった。

聞けなかった、の方が近かった。

でも、

それだけなんだろうか。

スタッフは真面目だし、
ちゃんとやっている。


お客様からの評判も悪くない。

それでも、続かない。

自分のやり方が悪いのかな、と思う。

ちゃんと伝えられていなかったのかもしれない。

任せているつもりで、
任せられていなかったのかもしれない。


気づくと、

口にする言葉が変わっていた。

「前にも伝えたと思うんだけど…」

「そういうつもりじゃなかったんだけどな…」

「なんでだろう…」

責めたいわけじゃない。

でも、

同じズレが、何度も起きる。


そのたびに、

うまく言葉にできないまま、
違和感だけが残る。


ある日、聞かれた。

「どうしたら評価上がりますか?」

少し考える。

売上。
技術。
接客。


大事にしているものはある。

でも――

説明しようとすると、
言葉が止まる。


「売上も大事だし…」

「でも、接客もあるし…」

「技術も…」

途中で分からなくなる。

あれ。

これ、
何を基準にしてたんだっけ。

「まあ、全体で見てるかな」

そう言って終わらせた。

でも、

その言葉が残った。

全体って、何だろう。

その日の夜。

一人で考える。

売上はある。
店舗も増えた。


でも、

これ、ちゃんと回っているのか。

分からない。

スタッフが増えるほど、
分からないことが増えていく。


何が正しいのかも、
何がズレているのかも、
はっきりしない。


ただ、

何かが違う。

もしかすると、

ちゃんとやってきたつもりのことが、

全部、ズレていたのかもしれない。

その感覚だけが、残る。

そのとき、

あのときの問いが、
ふと頭に浮かんだ。


「組織のことって、
どこかで学ばれたことありますか?」


そのときは、
深く考えなかった。


でも今は、
少しだけ分かる気がする。


分からないことが、分からない。

そんな状態だったのかもしれない。

自分は、

何をもとに会社をやっているんだろう。

技術は学んできた。
接客も学んできた。


でも、

会社のことは――

ちゃんと学んだことがない。

店舗は増えた。
スタッフもいる。
売上もある。


でも、

これが本当に
“ちゃんとした会社”なのかは分からない。


ただ、

広がっただけなのかもしれない。

答えは出ない。

でも、

このままでいいとは思えなかった。

何が問題なのかは、まだ分からない。

でも、

何かがズレている。

その違和感だけは、
はっきりしていた。


もう一度、
あの人に会った方がいいのかもしれない。


でも――

何を聞けばいいのか、
瑞希にもまだ分からなかった。


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